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【忘れてもらえないの歌】稲荷の夢の中で [忘れてもらえないの歌]

【忘れてもらえないの歌】

稲荷の夢の中でのこと






稲荷は文机に向かって座り

書き物をしている。

和服を着ているのは

そういう年代なんだろう




編集者)稲荷せんせ

稲)締め切りの催促なら

 やめてください。

 焦るだけです

編)いえ、少しお耳を拝借

稲)え?ああ、秋祭りの音ですね

編)いかがですか?気分転換に

稲)その心遣いに

 十分やる気が出た。

 もう少し粘って

 書き上げてしまうよ

編)先生は真面目ですのね

稲)どうだろ?

 子どもの頃から物書きに

 憧れていたからね。

 こうして締め切りに

 追われるのも

 楽しんでいます

編)それならよかった






舞台中央には床屋らしく

白い上衣を着た滝野が

はさみ片手に散髪しながら

客と会話している。

客)若いのに大したもんだね

いや、まだまだですよ

客)おいおい、

 謙遜するのもいいけど

 自分を褒めるのが下手だと

 人生、疲れるぞ

じゃあまあこうして

独立できたんだから

少しは褒めてあげますか

客)そうそう、

 それでいいんだよ

はい






亮仲はピアニスト、

麻子は教師になっていた

麻)教師になることは

 子どもの頃からの

 私の夢でした

稲)夢でした

良)夢でした




シュプレヒコールのように

「夢でした」という3人の後で

滝野は違うことを言った






はっはっはっは、

夢とかなんとか

そんなんじゃないですよ

客)また謙遜

いやほんと。

くいっぱぐれないですから

客)そういうもんかね

だってね、手が無い、

足が無いでも

人は生きていけますけど

首から上がなきゃダメでしょ

客)ほお

つまりね、

生きてるやつには頭がある。

頭があれば毛が生えてくる

客)無いやつだって

いますけど。

あるやつに次から次へと

生えてくる

客)ほお、

客)俺も床屋になろうかな

おっと聞き捨てならないなあ

客)え?




客の首にカミソリを当て、

じわじわ引くと出血し

客は死んだ

商売敵の芽は早めに

つんどかないとねえ





『僕は短気な床屋さん』
僕は短気な床屋さん
すぐにお客の喉を切る
だけどちょっと 
ほんのちょっと
血が苦手
あああ苦手
あああ赤い




稲)あああ

スレッガー)どうした、稲荷

稲)スレッガーさん、

 夢を見ていました

ス)それはよかった。

 お前がここに来たばかりの頃、

 夢を見ないと言っていた

稲)そうでしたか

ス)私は嘘だと気づいていたが

 戦争の夢を見ていたのだろう、

 私に言えなかった

稲)いえ

ス)仲間が殺される夢か、

 それとも私の仲間を

 殺す夢か

稲)バンドの仲間たちの夢ですよ、

 みんなが昔、見ていた、

 戦争が無かったら

 きっと果たしていた夢の、

 夢を見ていた

ス)お前の夢は?

稲)ジャズバンドで

 サックスを演奏することですよ






稲荷の夢の中に滝野はいた。

夢を抱く滝野ではなく、

生きるためには

血を流すことも恐れずに

現実を生きる滝野が

稲荷には見えていたのだろう




そんなふうに思われていたとしても

滝野が

仲間だと思っている稲荷の夢の中に

自分がいると知ったら

うれしかっただろうな

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