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【忘れてもらえないの歌】麻子との別れは突然だった [忘れてもらえないの歌]

【忘れてもらえないの歌】

バンドから良仲が去ってしまったが

滝野は会社を作った




傷つきながらも

会社を作った滝野に

新聞記者が言う、

喧嘩別れした、その人間の心には

あなたという人間の破片が

チクリと刺さっているものですよ。

相手が元々持っていなかった

感情を掻き立て

そしていつしか破片は

相手の心の中に取り込まれる。

その人の心を豊かにする。

ははは、どう?

考えれば

そう悪い経験でもないでしょう!?

もちろん、

逆もしかりです




逆とは、

相手の心に

悪いものを残してしまうこともある、

ということだろうね






常時出演する場所がなくなった、

東京ワンダフルフライは

それでもバンドを続けていた。

この日はデパートの屋上で

洗剤メーカーのイベントに

出ていた。

滝野が売り込んで

獲得した仕事だったが

まともに聞いてくれる客はおらず

ただ音を出しているだけだった



瀬)社長さん、社長さんよ、

社長って言わないで下さいよ

瀬)これ、我慢したら

 ボーナス出たりするのか?

ボーナス出るほど

売り上げ、無いですから




裏に山積みになっている洗剤を

こっそり持ち帰って

どこかで売ろうと大が言う、が

止めろよ、これから

お得意さんになるかも

しれないんだぞ

瀬)は?こんな仕事が

 これからも続くのか?

いいですか!?彼らは企業です。

進駐軍のように国に帰ったり

鉄山一家のようなヤクザじゃない。

彼らからギャラをもらうことは

大事なことです

稲)前は客から

 金をもらうべきだ!って

物事には順序があるでしょ

稲)その順序をこなしていくと

 どこにたどり着けるんだっけ?

音楽で安定した生活が

送れるようになる




滝野の言葉に説得力は無かった…






その時、

一緒に活動していたオニヤンマが

麻子を担ぎこんできた。

酔っ払いの麻子や

元拾い屋のオニヤンマとも

ギャラを分け合うことを

素直に納得できない瀬田だったが

目の前の客が

笑顔になるのを見ると

演奏することが止められない。

瀬田)この先、不安しかないわ。

そう言いながらも

バンドを辞めないのだった






立てないほど酔っている麻子だが

音楽が鳴ると

オニヤンマと二人で見事に

『マジックママ』を歌い踊る。

軽快な『マジックママ』が

CMソングになる可能性も出てきた




それを見ていた主婦3人組が

麻子が”パンパンの麻子”だったのを

覚えていた。

コオロギたち、昔の仲間だ。

3人は今では過去を隠して結婚し、

団地妻になっていた




再会を喜んで昔を懐かしむ3人。

3人にとって、

戦後パンパンをしていた頃は

もはや「過去のこと」だった。

片や、麻子はその頃と変わらず

バンドに将来を託す暮らしだった。

その違いに気付く麻子。。。

麻)あたしにはまだ、今の話だから。

 あたしを

 思い出話にしないでほしい。

 あたし、どう見えてる?

 歌手でもなんでもない偽物が

 調子乗って歌なんて歌って

 落ちぶれて。

 「ざまーみろ」って思ってない?

 思ってんでしょ!?



コオロギ)あのさぁ、

 何があったのか、知らないけど。

 パンパンやってた時だってさぁ、

 本物だと思って

 やってなかったでしょ!?

 偽物のパンパンだったよ、

 あたし達。

 でも、あたしたちを買う男はさ、

 そこを気にしてなかったんだよ。

 それより、戦争に負けて

 しょぼくれてる自分に

 股を開いてくれるってことに対して

 金を払ってた気がするのよ。

 つまりあたしたちは、そういう

 行き場のない寂しさとか焦りとか、

 もちろん肉欲とか、

 そういうのの入れ物だったんだよ。

 だからさぁ、

 歌手として偽物なのか本物なのか、

 悩むよりかさぁ、 今の客の

 何を受け入れられるかってことを

 考えたらいいんじゃないの!?

 それで喜ばしてきたんだから




そう言い残して3人は帰っていった。

話している3人と麻子を見て

何かを思い出す洗剤社員。。。






そこへ奥から押し問答しながら

滝野やバンドメンバーが出てきた。

稲)僕はずっともう何年も

 違和感を抱えていました。

 それに気づいていない時点で

 これ以上一緒にやれないかと

瀬)お前、俺に「辞めるな」て

 言ったばかりじゃないかよ

稲)二人同時に辞めたら悪いでしょ

瀬)なんだよ、もう





滝野は洗剤社員と話し中だ。

コマーシャルソングとして

レコードを出せるなんて、

ありがたいお話で

稲)僕もうれしいです。

 皆さんに良い置き土産ができて、

 決断するきっかけになりました

麻)稲荷さん

稲)裸足で歩いていた僕が

 数週間後には煙草をふかしながら

 サンドイッチを

 醤油醤油(コーラ)で流し込んでたよ。

 みなさんのおかげです。

 ありがとう




去って行こうとする稲荷を

大が大声で呼び止める

大)そんなにあわてて辞めなくても

稲)僕が書きたいのは

 『マジックママ』

 なんて詞じゃないんだよ

社員)すみません

麻)納得して

 妥協してたんじゃないの?

稲)そうだけど。

 これ以上魂を売れないよ

オニ)は?何、うじうじしたこと、

 言ってんのよ

そもそも、魂って

そんなにすぐ

売り切れちゃうものなの?

売っても売っても売り切れないほど

強くてデカくて

次から次へと湧いて

出てくるものなんじゃないの?

瀬)まあ魂の定義には諸説あるがな。

 かの柳田邦夫先生によるとだな

俺は商品のために演奏するぐらいで

これっぽっちも魂は

減ったりしないよ

麻)滝野さんの魂って何?

だからぁ、

音楽が好き!ってことだよ




滝野が強い声で言い切っても

誰も何も話を続けなかった。

なんでだろう?

滝野の才覚は

「仲間と音楽しながら生きていく」

ではなく

「音楽を手段に生きていく」だと

思われているのか?

なんだか切ないなぁ






ええっ!?

まだ僕を疑ってんの?

麻)だって普段

稲)とにかく、僕は無理だよ

 すり減る

ははは、そう言わずにさ

滝野は力なく、

声にならない声で笑うだけだった。

長い期間一緒にいても

分かってもらえてなかったら

笑いでごまかすしかないよね。。。

切ないなぁ






そこに洗剤社員がやってきて

麻子の衣装を脱がそうとした。

以前、社員は

麻子を買ったことがあるのを

思い出したのだった。

清潔を売り物にしている

洗剤会社の宣伝広告には

出せない、と言うのだ。




はははは、

いつの話をしてるんですか?

社員)認めるってことですね?

 レコードの話もこれで

オニ)あのさぁ、

 ちょぉーっと待ってあげて。

 そういう時代だったでしょぉ。

社員)分かります。

 ただ、今は時代が違うんです

オニ)身寄りのない女が

 一人で生きていくにはね、

麻)止めて!




叫ぶように言うと

麻子は衣装のミニワンピースを

するすると脱いで

下着姿になった。






衣装を洗剤社員に突きつけると

麻)お返しします!

きっぱり言い切った




買ったことがあるなら

あなたも当事者でしょ

社員)それはそういう時代で

ほら、そう思うでしょ

麻)止めてったら!

 時代のせいにしないでくれる?

 あたし、全部、

 自分で決めたことだから!

 あの時焼け野原にいた女が

 全員、体売ってたわけじゃ

 ないでしょ!?

 でもあたし、それ選んだもん。

 誰かや時代に

 そうさせられたなんて

 思ってない。

 戦争なんか無くたって

 体で稼いでたかもね。

 偉そうにしてる男がさぁ、

 涙流してあたしの体、

 まさぐるの、楽しかったもん。

 あの時の生きてる実感が

 時代の、

 戦争のせいだなんて

 思っていないから!

 



心の片隅にあったであろう想いを

一気に叫ぶように言う麻子。

実際に終戦直後は

何も持っていない女は

自分の体を売ることで

お金を稼ぐのを選んだのも

仕方なかったのだろう。

ただそのことが

”悪”として付いているのが

悲しくて切なくて…

麻子の叫びに

毎回、涙しました






言いたいことを言うと

麻)私、辞めますから。

 どうかレコードだけは

社員)ムリですよ




そう言われてしまい、

麻子はひとり、

大声で歌いだした

麻)♪ When whippoorwills call

 And evening is nigh

 I hurry to my Blue ♪

瀬)何してんだ、急に

麻)最後まで頼りない武器でした




麻子の歌声も

大事な場面では役に立たない、

頼りないものだった。

戦場の稲荷と同じだ。

稲荷もそう思ったのか、

着ていた背広を脱ぐと

麻子の肩にかけ

下着姿の麻子を

隠すようにして抱くと



稲)たまには慰めあいますか?

そう言って二人で去っていった






この場面は麻子に涙涙でした。

自分の過去を否定され、

唯一の武器だと思っていた

歌声も役に立たなくて。

滝野たちの生きる道、

つまりレコード化を

ダメにしてしまった




自分だけでなく

仲間の生きる道も傷つけたと

自覚した麻子が歌う、

『マイ・ブルー・ヘブン』は

粗削りな、むき出しの声が

麻子の気持ちそのもので




きれいな声じゃなくても

胸に刺さる、

本当に感動的な歌だった

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