SSブログ

【忘れてもらえないの歌】滝野と良仲のすれ違い [忘れてもらえないの歌]

【忘れてもらえないの歌】

稲荷の元へバンドボーイの大が

サックスを持ってきた。

稲荷が修理を頼んでいたものだ




大)おいなりさーん

稲)その呼び方、やめろ

大)まだ調整は必要ですけど

 相当ましになりました

稲)ありがと




戦争孤児の大は

滝野にジャズの楽譜を

工面したことで

その見返りとして

バンドボーイになって

滝野たちと一緒にいたのだろう。

戦後の混乱を生き抜くには

じっとしていてはダメ。

自ら何かをしないと

身寄りのない者は

生きていけなかったんだろうな






大が持ってきたサックスを触って

稲荷が気付いた

稲)これ、俺のサックスじゃないな。

 お前、安物と交換したな!?

大)ばれましたぁ?

稲)お前が何を盗もうが

 かまわないけど

 身内から盗むなよ

大)お、ようやく俺を

 身内と認めてくれましたね

稲)そういうわけじゃ




そんな話をしている間にも

大はバーカウンターの壁に

かけてあるものを持ち去っていった






そこへカモンテに連れられて

瀬田、良仲、曽根川、滝野が

帰ってきた。

皆、パリッとした背広姿だ。

スレッガー中佐が紹介してくれた

将校クラスしか相手にしない店で

仕立てたのだった




稲)少し派手じゃないですか?

瀬)思いっきり派手に

 してもらったつもりだけど

ス)今夜もよろしく頼むよ






稲荷が大に

サックスをすり替えられたことを

話す

稲)大にやられたよ。

 サックスの修理を頼んだら

 安物と入れ替わって返ってきた。

 雑用係なんかいらないよ。 

 そろそろクビにしないと

借りを返せと言われてるからね

瀬)第一、高いサックスなんか

 買うからだよ。

 楽器は音が出ればいいだろ

曽)そうそう

良)賛同はできませんね

瀬)はいはい、言うと思った

 





作家志望でも

仲間になって始めたジャズバンドを

自分の中心においている稲荷。

バンドはあればいい、

という程度にしか考えていない瀬田。

素人から始まったバンドでも

音楽家であるプライドは

高くて崩れない良仲。

バンドにたいする

それぞれの気持ちはばらばらだった






そこにアルコール片手に

麻子がやってきた

良)これから演奏ですよ

麻)少し飲んだくらいが

 ちょうどいいでしょ。

 客もみんな飲んでるんだから

 調子合わせないと

きみは飲み過ぎだよ

麻)え?

んもぉ、時間がないな。

今日やることを決めようか




寄っている麻子を気にしつつ

曲目を決めようと

明るく元気に言う滝野は

自分たちのバンドのことを

しっかり考えている、

ちゃんとしたリーダーだった






曽)いつもと同じでいいだろ

良くないから言ってるんです

瀬)どうせ途中でリクエスト、

 かかるんだから

リクエストの曲ばかりじゃ

他のバンドと同じでしょ!?

曽)は?問題あんのかよ?

俺たちなりの演奏を

するべきです

瀬)それでギャラが上がるなら

 やるけどもよ

曽)客は踊れればいいんだよ。

 演奏なんて聞いてねえよ




その日その時が過ぎればいいと、

そんな考えのメンバーに

先のことを考えて

提案する滝野の気持ちが

伝わってほしいよ






カモンテ)おいなりに

 何か意見がありそうね

稲)いえいえ

何?なんでも言って!

稲)意見というか。

 新しく訳した詞があって

曽)歌詞なんか何でもいいよ、

 ばーか

せっかく

書いてきてくれたんだから




そう言って滝野は一心に

稲荷の書いた詞を読む。

その姿は嬉しそうだったなぁ




良)そうですよ

曽)好きにしなよ。

 どうせ誰も聞いてねえんだから






読み終えて滝野は

嬉しそうな顔で言った

うん!俺、すごくいいと思う。

じゃあ今夜からこれを

良)いやいやいや。

 これ、元々歌が無い曲だから。

 こういうこと、

 もうやめようよ

え?

良)作曲者に失礼でしょ。 

 1000歩譲って、

 英語の詞ならまだしも

でも今までも日本語に訳した

良)だから本場の音に近づくためには

 もうこういうことは止めよう。

 俺はあれは弾けない

カ)いい詞じゃない




カモンテのその一言で

演奏する雰囲気になると

すかさず曽根川が乗っかった

曽)テンポはどうすんだよ

情感たっぷりに

踊っていただきましょう。

で、詞は1番は英語で

2番は日本語で歌えばいい

麻)滝野さん、

 もう少し英語、覚えてよ

じゃあきみがこの詞で歌う。

それでいいね!? へへへ

それと稲荷は

少しだけ歌詞を変えて

客と掛け合いが

できるようなパートを

作ってもらって

稲)なんで?

ふふ、盛り上がりも大事なの!

稲)それはちょっと

良)それこそ作曲者のイメージと

 違うと思う

そうだね…英語ならいいの?

麻)日本語で歌えるんじゃないの?

そうだねぇ

稲)英語の歌詞は書けないよ

そうだね

瀬)第一、掛け合いなんかしたって

 酔ってる兵士に絡まれるだけだよ

でも何かしないと

他のバンドと同じでしょ!?

瀬)は?問題、あんのかよ?

俺たちなりの演奏をするべきです

瀬)それでギャラが上がるのなら

曽)客は踊れればいいんだよ。

 演奏なんて、

 こわっ、話、元に戻っちゃったよ

カ)ははははは、

 やるだけで必死だったあなた達が

 こんな話をするようになるなんて

 成長した証だと思うけど。

 ま、成長しすぎて

 老け込まないでね

瀬)1曲ずつ順番にやりたいときに

 やればいいんじゃないか

曽)ああ




結論を聞き終えると

カモンテは去って行った






こんな感じでいいのかなぁ

曽)何が?

このままじゃいつか稼げなくなるよ

良)これ以上、まだ稼ぎたいの?

お金の話じゃなくて

曽)じゃ、なんだよ

俺たちのギャラは

誰が払ってると思う?

稲)お金の話じゃないか

答えて!

麻)お客さんでしょ

違うよ。忘れたの?

曽)アメリカさんが払ってる。

 が、請求書は日本に回される

そうです。

なんにせよ、国が払ってる

曽)何が言いてえんだよ

いつまで国の金で演奏するの?

良)いつまでって?

瀬)後ろ盾が国なら

 安泰じゃねえかよ

客は全員兵隊ですよ。

戦争になったらみんな

戦場に行っちゃいますよ。

今のうちに普通のお客から

金の取れるバンドに

成長しておかないと

良)ごめん、話がかみ合って

 ないように思えるよ。

 そういうバンドになるためにも

 まずは本場に負けないジャズを

 やるべきなんじゃないのかな

だから

良)きみは出会った時から

 お金の話しかしないよね






滝野と良仲が

かみ合っていないことが

鮮明になってきた。

根底に「生きていく」という

強い思いのある滝野は

要領がいい、とか

野心家とか

思われるのかもしれない。

が、そんなことはここでは

気にしていない。




なんとか、このバンド仲間と

生き抜いていきたい!

そのために心を砕いていた






でも、このころって

自分が生きていくことに

一生懸命で。

相手の言葉に耳を傾ける

心の余裕は無いよね。

自分の伝えたいことを

言うのに精一杯




意見をぶつけ合って

ただすれ違ってしまうのが

悲しかった




滝野の思いが

分かってもらえますように!

nice!(0)  コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。