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【忘れてもらえないの歌】滝野と良仲の本音のぶつけ合い [忘れてもらえないの歌]

【忘れてもらえないの歌】

米国が引き上げ

顧客がいなくなった滝野達は

それでも他に手段はなく、

細々とバンド営業を続けていた






場末の店の裏の路地が

滝野達の控室だった。

そこは店員が

ヒマつぶしをする場所でもあった

給仕の女)あーあ、

 あたしはこのまま

 年取って生きていくのかねぇ。

 嫁、行きてえ。

 ゴキブリ、ゴキブリ




屋外でもゴキブリの姿があった。

清潔とか衛生とかまで

気がまわらない時代だったんだろう




女)マリリンモンローてのが

 離婚したってよ。贅沢な話だよ。

 あたしはどうなんのさ。

 ゴキブリ、ゴキブリ




そんな独り言を言いながら

ゴミ箱をあさりに来た浮浪者を

追い払うのも女の役目だった

女)あっちへ行けえー






そんなところに

麻子と稲荷が口論しながら

やってきた

麻)何がいいたいのよぉ

稲)今さら「なんで?」て思って

麻)思って、なによ?

稲)きみがボーカルなんだから

麻)ちょっと英語に耳が

 馴染んでただけだから。

 あたしは本物の歌手じゃない!

 頼りない武器だけ持たされて

 戦う気持ち、分かる?

稲)僕もそれを満州で2年、

 やってきた

麻)ごめんなさい

稲)辞めてどうするの?

麻)さあ?

稲)思い出してよ!出会った頃の

 必死なきみの必死な歌。

 何かから逃げるように歌ってた。

 その「何か」は

 立ち止まったら今でもすぐにも

 追いつかれると思わない?

 暮らしが楽になって念願の

 うじうじ悩む生活が

 出来るようになったんだよね。

 でもバンド辞めたら

 また悩むヒマ、無くなるよ

麻)お金のためにやれ!てこと?

 滝野さんと同じ?




麻子には滝野のやり方が

お金のためだけに思えていたんだ。

その向こう側にある、

”なんとしても生き抜く、

自分が「仲間」と思った者とともに”

という思いは伝わっていなかった。

切ないなあ






稲)ずるいよ

麻)え?

稲)他の人に言わないで

 僕に言うのはなんで?

麻)なんでって

稲)言いやすい?

 僕には愚痴が言いやすい?

麻)そういうわけじゃ

稲)良仲くんは

 ジャズに筋の通った人だし。

 滝野くんは頭がいい。

 瀬田さんや大は手先も

 人間としても器用だよ。

 何にもない僕には言いやすい?

麻)稲荷さんは詞が書けるでしょ。

稲)褒められたためしがない詞。

 物書きに専念する度胸も無い。

 自分を許せる範囲で

 妥協した結果が今だよ

麻)あたし、稲荷さんとは

 似たところがあると

 思ってたけど

稲)どうも

麻)自分のことが嫌いだと

 自分に似てる人も

 嫌いになっちゃう。

 似た者同士で慰めあえないって

 寂しいね




麻子と稲荷は

本音wぶつけ合うことができる

心の距離だった。

似ていたのかなぁ






給仕の女)痴話げんかする場所じゃ

 ないんですけど

麻)じゃあ、何する場所??

女)裏口てのは、こうやって仕事を

 サボタージュする場所ですよ

麻)楽屋が無いんだから

 仕方ないでしょ




そこへ瀬田と大もやって来た

大)おはようございます

瀬)オーナーに言ってくれよ。

 バンドには只でアルコール出せって

女)ただ酒、呑みたかったら

 もう一度戦場になって負けて

 占領されなよ。

 進駐軍が呑ませてくれるよ

瀬)ちっ、カモンテの店に戻りてぇよ

大)それを言っても始まんないっすよ

瀬)だからって、この店、嫌いだよ。

 特に、あのオーナーが






そこへオーナーが鼻歌を歌いながら

やって来た。

歌っているのはその頃でも

少し時代遅れの歌謡曲。

機嫌のいいオーナーに

何か言いたいことがあるのか、

滝野と良仲がついて歩いていた




鉄山)なあ、知ってんだろ?

ええ、まあ

鉄)じゃあ、今晩からやれよ

はい?

良)その曲をジャズのアレンジに

 すればいいんですか?

鉄)そうじゃない!

 もっと日本の心を演奏しなさい、

 って話だ




鉄山の言い分に

納得していない雰囲気を

感じた滝野は

双方が納得いくように考えて

言った

逆に伝わりにくいことをやるなら

分かるんですが

良)俺はいやだよ

う、うん。

だから、今は

真正面から鉄山に反論する良仲を

なんとか鎮めようと

滝野は必死だった。

それも”この仲間と生きていくため”

だと思うと

なんとか滝野の思いが

伝わってほしいと思った






鉄)とにかく、嫌なら

 今から別のクラブで演奏しろ

麻)そうは言ったってそこらじゅう

 鉄山さんの縄張りでしょ。

鉄)はーい!鉄山、頑張りました!

 いっぱしの親分に相成りました




鉄山は鉄山で

生きていくために裏社会を

上り詰めていたのだった。

戦後を生き抜くためには

「モラル」「社会規範」は

意味が無かったのかもしれない






瀬田)どうすんだよ

大)僕、イヤっすよ。

 せっかくバンドに

 入れてもらえたのに

 出る店が無くなるなんて

オニヤンマ)そう。

 出る店があるってことは

 大事だよ!






オニヤンマが

ピアノ、ベース、ドラムを連れて

やって来た

オニヤンマ)皆さん、

 ご無沙汰しています。

 人呼んで「オニヤンマ」こと 

「大山よしこ」です

稲)意外と普通の名前だったんですね

オニヤンマ)鉄山さぁ~ん、

 ですよね!?

鉄)なんだ?殴り込みか?

 誰か?おい

オニ)誤解なさらないで。

鉄)は?

オニ)ある意味、殴り込みですが。

 この店をどうこうしよう、

 という意味はございません。

 私、元は拾い屋を

 やっていた人間でして。

鉄)うちの店はバンドは間に合っている




「バンドは間に合っている」

鉄山のその言葉に

滝野たちはほっと

胸をなでおろしていた




オニ)間に合ってると

 思い込んでるだけじゃないですか?

大)みなさぁーん、

 何か言わないと

はい?

大)出番を盗まれますよ!

はい?

オニ)そこの坊やのほうが

 察しがいいね

大)ほら!

鉄)爺やは何も分からない

オニ)昔からバンドをやったほうが

 よっぽど儲かると

 思っていましてね。

 ならば演者にまわろうと

 メンツを揃えた矢先に

 進駐軍が帰りやがった。

 おかげで仕事にあぶれたバンドマンで

 どこのクラブもいっぱいだ。

 そこで、おまえらの出番を

 あたしが奪う

鉄)そんなことを言われてもなぁ

オニ)良いバンドを出したほうが

 客も入るでしょ

鉄)なるほど

鉄山さん、それはないでしょ

鉄)慌てるな。

 こちらのほうが良いバンドだと

 確かめてから

オニ)もちろん!

 それを証明するために来ました。

 知ってるぞぉ、

 きみたちの音楽はちょーっと古い。

 あたしがお前らを

 卑屈にさせてみせよう、ははは




間奏でイリュージョンを見せるのは

ご愛嬌(笑)

オニヤンマ、というか

桑原さんの歌が見事で!

『タンバリン・ボーイ』は

毎回聞き惚れていました。

バラさんて、ほんと、すごい!

ACTシアターで1,900、

オリックス劇場で2,400の拍手は

まさにバラさんのものだった






大)負けてらんないっすね!

 いつもの1曲で

 勝負しましょうか!?

 早く!!




はっきりした声で言うと

大はドラムを叩き出し、

大)やりますよ!

 ワンツースリーフォー






滝野は歌うしかなかった、

『シング・シング・シング』




手振りでバンドと客席を煽り

リズムと雰囲気で

当時のクラブにいるような

気にさせたのは

生の舞台に強いヤスくんらしかった。

バラさんのイリュージョンや歌に

喰われてしまいそうな日も

ここで必ず通常の

【忘れてもらえないの歌】に

戻していた




歌が上手いのは

いつものヤスくんだったけど、

動きは滝野で。

生きていくために

バンドにしがみついている滝野って

きっとこんな感じで

日々クラブで

仕事をしていたんだろうな





鉄)わかった。もういい

まだ途中なんですよ

オニ)さーて、どっちか、

 選んでもらおうか

鉄)うちは引き続き

 このハエどもを雇う。

 どう考えても

 お前らのほうがよかったな。

 確かにワンダフルフライは

 古臭い

オニ)だったら

鉄)しかし大衆には

 少々時代遅れくらいが

 ちょうどいいんだ

良)あんたは分かってないよ、

 今のは選曲が悪かっただけ

え!?

良)ジャズっていうのは

 常に変化しながら最先端のものを

鉄)お前こそ音楽のことが

 分かってない。

 彼女が見せてくれたのは

 リズム&ブルースと呼ばれる、

 新しい音楽だ。

良)リズム?

鉄)なんだ、知らないのか?

オニ)知らないことは恥じゃないよ。

 時代の流れに乗らず

 一つの道にしがみついても

 男らしいじゃないか。

 男くさい!

 これからも鼻で笑われる悔しさや

 置いてきぼりの寂しさに耐えながら

 どうぞ、己の道を

 パキっと貫いてくだせえませ笑い

鉄)そのへんにしてやれ

オニ)帰るよ。

 逆に自信がついた。

 出番をくれる店はいくらでもある




そんなオニヤンマには目もくれず

鉄)今晩もよろしく。

 客は懐メロを聞きたがっている

そう言って鉄山は去っていった






瀬田)懐メロだってよ

稲)なんで僕に言うんですか?

瀬)まず、お前の訳が古いんだよ。

稲)分かりやすくするって

 みんなが好き勝手に

 いじったんですよね

瀬)嫌ならもっと早く言えよ




険悪になりかけたところで

給仕の女が舞台に出るよう、

呼びに来た






ちょっと待って。

今のではっきりしたよね!?

瀬)なにが?

今の仕事をいつ誰に奪われるか、

分からない

瀬)まあな

やっぱりギャラについて

考える時だと思う

稲)釣り上げか?

瀬)鉄山がそんなこと

違います。支払いの仕組みを

少し変えた方がいいと思う。

日給でもらってるうちは

生活が安定しないでしょ。

明日、また、別の

オニヤンマみたいなやつが来て

うちらの出番を取られたら

いきなり収入がゼロになる

麻)仕方ないでしょ、

 そういうもんなんだから

いやいや、対策がある

瀬)何?

サラリーマンになるんだ!

良)バンドを止めるてこと?

違う。

月給をもらってバンドをやるんだ

稲)誰が払うんだ?

言い出しっぺの俺が払う。

大)滝野さん、払えるんですか?

そこだよ。

まず、

ほんとはみんながもらうギャラを

俺が預かる

瀬)はあ?

そして毎月決まった額を

まとめて支払う。

ただし日給でもらう合計よりは

安くなる

大)滝野さんが

 ピンハネするわけっすね

スーピンくらいはハネるよ

瀬)いやだよ、そんなの

その代わり、

もし仕事が無くなっても

ちゃんと月末には

お金が入るんですよ。

会社だと思ったら普通のことでしょ

良)きみは間違ってるよ。

 音楽は仕事じゃない

じゃあ何?

良)芸術だよ!

瀬)ま、意見は色々あるけども

きみが安心して

芸術活動に打ち込めるように

月給制にしようって言ってるんだよ

良)いや。きみは

 金儲けのことしか考えてない

俺は金が好きなんじゃない。

生きることが好きなんだ!

で、生きるためには金が必要だろ

良)次は何?

 生きるためには鉄山の言うとおりの

 音楽をやるって言いだすつもりだろ

稲)そこまでは言ってないけど

会社を維持するためには

そういうこともあるかもしれない

良)自分の好きな音楽をやれないなら

 生きてる意味が無い

意味?

良)なんだよ?

空襲から逃げる時に意味を考えてた?

立ち止まったら死ぬから、

ただただ走ってただろ!?

あの頃とまだ大して変わってないよ。

日雇いで演奏するから

立ち止まったら死ぬんだよ。

俺はみんなに立ち止まってほしい。

立ち止まって、

存分に音楽をやってほしいから

言ってるんだ




滝野が一人で生きるつもりなら

こんなにも必死に訴えたりしないだろう。

大声になって言うのは

なんとかして

仲間と共に生き延びたいからだと思う。

滝野の思いが通じるといいなぁ、

と、ここでは涙することが多かった






良)きみはまさに

 「ワンダフルフライ」だなあ。 

 音楽に群がる汚いハエだ

光栄だね!

それはきみが、きみたちが

教えてくれたことだよ。

その周りをいつまでもブンブン

飛び回っていたいよ。

それはきみも一緒だろ?

きみだってハエだよ

良)似てるけどハエじゃない。

 おれはアブだ。

 音楽で人の心を刺そうっていう

 プライドのある

賛成だ!その手伝いがしたい

良)ハエとアブが一緒に飛んでるのを

 見たこと、あるか?




理想と現実。。。

良仲と滝野の言い分は噛み合わない。

どちらかが正解、ではないだけに

やるせない気持ちになる






稲)話はあとで

瀬)俺はどっちの味方もしないからな

きみのためを思って言ってるてことを

分かってほしい。

ほら、お客さんが待ってるよ




滝野の言葉が耳に入らない良仲は

ネクタイを外し、

地面に叩きつけると

振り返りもせずに去っていった。

良仲の背中には掛ける言葉もなく

見送るだけの滝野だった






滝野と良仲の本音のぶつけ合いは

見ていて壮絶。

本音なんだろうな、と思った。

生きることと芸術、

どこに重きを置くか。。。

時代によって違いがあるような、

違わないような、、、




信念は曲げたくないけど、

生き抜くこと第一、な私は

滝野の気持ちが

良仲に伝わってほしかった

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【忘れてもらえないの歌】米国の占領が終わってしまった [忘れてもらえないの歌]

【忘れてもらえないの歌】

米兵の間でも評判になってきた、

東京ワンダフルフライ。

だが、メンバーの仲は

けっして良くなかった。

ステージ上で揉めることも。。。

そんなとき、滝野は

笑顔!

そう言って自分も笑ってみせた






えー、ネクストソングは

サックスの稲荷が

皆さんご存知の曲に

詞を付けたものです。

日本語ですけど簡単に

米兵)早くやれよ




米兵にはバンドのごたごたは

関係ない。

踊りたくて

うずうずしてる兵士からは

催促の言葉が

矢継ぎ早に飛んでくるのだった




ほら、早く

麻)あたし?

そう決めたはず

曽)やらないのかよ?

稲)歌ってほしいです




渋々マイクの前に立った麻子は

『Egyptian Fantasy』を

日本語で情感たっぷりに

歌いだした。

1番を歌い終わると

リピート、プリーズ

滝野がそう言い、

客との掛け合いで麻子が歌った。

その最後は

麻)♪パイポパイポパイポの

 シューリンガン、

 シューリンガンのグーリンダイ、

 グーリンダイのポンポコピーの

 ポンポコナーの長久命の長助




寿限無の文言だったのを

必死でレスポンスして

兵士たちは面白がっていた。

そうやって盛り上がっていたのに

曲が終わると曽根川は

曽)ほんと、ありがとな。

 世話んなったな

曽根川さんっ

皆が止めるのもかまわず

曽根川は

ステージから去っていった






米兵たちは

曽根川に向けて

英語で『蛍の光』を歌うと、

次にバンドの面々に向けて

同じく『蛍の光』を

高らかに歌った。

英語の分からない滝野たち。

稲)どんな状況ですかね?

瀬)ウケた、ってことで

 いいんじゃない!?




スレッガー中佐が

マイクの前に立ち、言った

ス)今の歌は我々からの

 ささやかな恩返しだ。

 講和条約の締結により

 合衆国政府は

 この国の占領を終える。

ええっ!?

ス)日本は独り立ちするんだ。

 この店もお返しするよ。

 諸君、さよならでした




再び『蛍の光』を歌いながら

去っていく米兵たち。

それを東京ワンダフルフライは

呆然と見送るしかなかった






記者)ほぉ、じゃあ、

 滝野さんの言うとおりに

 なっちゃったんですね。

 それで店はどうなったんです?

 ははは、それは残念ですね。

 バンドも

 流浪の日々の始まりですか?

 でもそれ以降のジャズブームは

 それなりに続いたはずです。

 なるほど、

 ブームだと気付いた時には

 もう峠を越えていた、と。

 そういうものですよねえ




滝野が心配していた、

”誰からお金をもらうのか”

”米兵はいなくなる”

現実がやってきた。

日米講和条約が締結されて

日本に対する占領が終わり、

日本の主権が回復したのだ。

と同時に米兵が引き揚げ

米兵相手に仕事をしていた

滝野らは働く場が

なくなってしまった。

この先、彼らは

どうなるんだろう






バンド仲間が

揃って同じ志ならまだしも。

バンドに求めるものが

てんでばらばらでは

行く末の滝野の苦労が

容易に想像できた

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【忘れてもらえないの歌】滝野と良仲のすれ違い [忘れてもらえないの歌]

【忘れてもらえないの歌】

稲荷の元へバンドボーイの大が

サックスを持ってきた。

稲荷が修理を頼んでいたものだ




大)おいなりさーん

稲)その呼び方、やめろ

大)まだ調整は必要ですけど

 相当ましになりました

稲)ありがと




戦争孤児の大は

滝野にジャズの楽譜を

工面したことで

その見返りとして

バンドボーイになって

滝野たちと一緒にいたのだろう。

戦後の混乱を生き抜くには

じっとしていてはダメ。

自ら何かをしないと

身寄りのない者は

生きていけなかったんだろうな






大が持ってきたサックスを触って

稲荷が気付いた

稲)これ、俺のサックスじゃないな。

 お前、安物と交換したな!?

大)ばれましたぁ?

稲)お前が何を盗もうが

 かまわないけど

 身内から盗むなよ

大)お、ようやく俺を

 身内と認めてくれましたね

稲)そういうわけじゃ




そんな話をしている間にも

大はバーカウンターの壁に

かけてあるものを持ち去っていった






そこへカモンテに連れられて

瀬田、良仲、曽根川、滝野が

帰ってきた。

皆、パリッとした背広姿だ。

スレッガー中佐が紹介してくれた

将校クラスしか相手にしない店で

仕立てたのだった




稲)少し派手じゃないですか?

瀬)思いっきり派手に

 してもらったつもりだけど

ス)今夜もよろしく頼むよ






稲荷が大に

サックスをすり替えられたことを

話す

稲)大にやられたよ。

 サックスの修理を頼んだら

 安物と入れ替わって返ってきた。

 雑用係なんかいらないよ。 

 そろそろクビにしないと

借りを返せと言われてるからね

瀬)第一、高いサックスなんか

 買うからだよ。

 楽器は音が出ればいいだろ

曽)そうそう

良)賛同はできませんね

瀬)はいはい、言うと思った

 





作家志望でも

仲間になって始めたジャズバンドを

自分の中心においている稲荷。

バンドはあればいい、

という程度にしか考えていない瀬田。

素人から始まったバンドでも

音楽家であるプライドは

高くて崩れない良仲。

バンドにたいする

それぞれの気持ちはばらばらだった






そこにアルコール片手に

麻子がやってきた

良)これから演奏ですよ

麻)少し飲んだくらいが

 ちょうどいいでしょ。

 客もみんな飲んでるんだから

 調子合わせないと

きみは飲み過ぎだよ

麻)え?

んもぉ、時間がないな。

今日やることを決めようか




寄っている麻子を気にしつつ

曲目を決めようと

明るく元気に言う滝野は

自分たちのバンドのことを

しっかり考えている、

ちゃんとしたリーダーだった






曽)いつもと同じでいいだろ

良くないから言ってるんです

瀬)どうせ途中でリクエスト、

 かかるんだから

リクエストの曲ばかりじゃ

他のバンドと同じでしょ!?

曽)は?問題あんのかよ?

俺たちなりの演奏を

するべきです

瀬)それでギャラが上がるなら

 やるけどもよ

曽)客は踊れればいいんだよ。

 演奏なんて聞いてねえよ




その日その時が過ぎればいいと、

そんな考えのメンバーに

先のことを考えて

提案する滝野の気持ちが

伝わってほしいよ






カモンテ)おいなりに

 何か意見がありそうね

稲)いえいえ

何?なんでも言って!

稲)意見というか。

 新しく訳した詞があって

曽)歌詞なんか何でもいいよ、

 ばーか

せっかく

書いてきてくれたんだから




そう言って滝野は一心に

稲荷の書いた詞を読む。

その姿は嬉しそうだったなぁ




良)そうですよ

曽)好きにしなよ。

 どうせ誰も聞いてねえんだから






読み終えて滝野は

嬉しそうな顔で言った

うん!俺、すごくいいと思う。

じゃあ今夜からこれを

良)いやいやいや。

 これ、元々歌が無い曲だから。

 こういうこと、

 もうやめようよ

え?

良)作曲者に失礼でしょ。 

 1000歩譲って、

 英語の詞ならまだしも

でも今までも日本語に訳した

良)だから本場の音に近づくためには

 もうこういうことは止めよう。

 俺はあれは弾けない

カ)いい詞じゃない




カモンテのその一言で

演奏する雰囲気になると

すかさず曽根川が乗っかった

曽)テンポはどうすんだよ

情感たっぷりに

踊っていただきましょう。

で、詞は1番は英語で

2番は日本語で歌えばいい

麻)滝野さん、

 もう少し英語、覚えてよ

じゃあきみがこの詞で歌う。

それでいいね!? へへへ

それと稲荷は

少しだけ歌詞を変えて

客と掛け合いが

できるようなパートを

作ってもらって

稲)なんで?

ふふ、盛り上がりも大事なの!

稲)それはちょっと

良)それこそ作曲者のイメージと

 違うと思う

そうだね…英語ならいいの?

麻)日本語で歌えるんじゃないの?

そうだねぇ

稲)英語の歌詞は書けないよ

そうだね

瀬)第一、掛け合いなんかしたって

 酔ってる兵士に絡まれるだけだよ

でも何かしないと

他のバンドと同じでしょ!?

瀬)は?問題、あんのかよ?

俺たちなりの演奏をするべきです

瀬)それでギャラが上がるのなら

曽)客は踊れればいいんだよ。

 演奏なんて、

 こわっ、話、元に戻っちゃったよ

カ)ははははは、

 やるだけで必死だったあなた達が

 こんな話をするようになるなんて

 成長した証だと思うけど。

 ま、成長しすぎて

 老け込まないでね

瀬)1曲ずつ順番にやりたいときに

 やればいいんじゃないか

曽)ああ




結論を聞き終えると

カモンテは去って行った






こんな感じでいいのかなぁ

曽)何が?

このままじゃいつか稼げなくなるよ

良)これ以上、まだ稼ぎたいの?

お金の話じゃなくて

曽)じゃ、なんだよ

俺たちのギャラは

誰が払ってると思う?

稲)お金の話じゃないか

答えて!

麻)お客さんでしょ

違うよ。忘れたの?

曽)アメリカさんが払ってる。

 が、請求書は日本に回される

そうです。

なんにせよ、国が払ってる

曽)何が言いてえんだよ

いつまで国の金で演奏するの?

良)いつまでって?

瀬)後ろ盾が国なら

 安泰じゃねえかよ

客は全員兵隊ですよ。

戦争になったらみんな

戦場に行っちゃいますよ。

今のうちに普通のお客から

金の取れるバンドに

成長しておかないと

良)ごめん、話がかみ合って

 ないように思えるよ。

 そういうバンドになるためにも

 まずは本場に負けないジャズを

 やるべきなんじゃないのかな

だから

良)きみは出会った時から

 お金の話しかしないよね






滝野と良仲が

かみ合っていないことが

鮮明になってきた。

根底に「生きていく」という

強い思いのある滝野は

要領がいい、とか

野心家とか

思われるのかもしれない。

が、そんなことはここでは

気にしていない。




なんとか、このバンド仲間と

生き抜いていきたい!

そのために心を砕いていた






でも、このころって

自分が生きていくことに

一生懸命で。

相手の言葉に耳を傾ける

心の余裕は無いよね。

自分の伝えたいことを

言うのに精一杯




意見をぶつけ合って

ただすれ違ってしまうのが

悲しかった




滝野の思いが

分かってもらえますように!

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